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エコボトル、笑顔と感謝

伊調千春 柔道の取材中、会場の「文字記者看台席」(試合を見ながら記者が取材する場所)に置かれたペットボトルに小さなシールが張ってあるのを見つけた。スマイルマークや鳥の絵などが描かれていて、一本一本違う。なんだろうと思い、ボランティアに聞くと「エコへの配慮です」という。
 エコは北京五輪のテーマの一つ。大気汚染の改善やごみの分別収集などの取り組みをアピールしているが、このシールもその一環という。自分のものがどれか分からなくなって、飲み終わらないうちに新しいボトルに手を伸ばすのを防ぐのが目的らしいが、細やかな配慮に驚いた。
 シールは会場のボランティアで考えたという。どこに行っても統率の取れたボランティアだが、創意工夫が生かされる余地があると知り、少しうれしい気がした。

 さて、北京五輪も最終盤。初めての五輪取材で、日々のドラマが新鮮、といいたいところだが、とてもそんな余裕はない。それでも柔道やレスリングの取材では、何度か心を揺さぶられた場面があった。中でもぐっときてしまったのが、レスリング48キロ級で銀メダルを取った伊調千春選手(26)の笑顔だ。
 4年前のアテネ五輪で銀になった時の不機嫌そうな顔は忘れられない。その後「姉妹で金」と言い続けてきた千春選手。その執念は2戦目、アテネの決勝で敗れたウクライナの選手との試合で現れた。リードされた終盤、瞬時に技を決め逆転勝利。千春選手は両手を挙げ、雄たけびをあげた。
 決勝は攻めあぐねたまま終わったが、負けた後とは思えないほど穏やかな表情。表彰式では優勝者に対し、メダルをみんなに見せようと合図をした。胸の前では物足りないとでもいうように、メダルを首から外して高く掲げ、とても幸せそうな笑顔を見せた。
 意表をつかれた。その後の会見で、千春選手は「表彰台では支えてくれた人への感謝の気持ちでいっぱいだった。最高に輝いた銀。(妹)馨との4年間は輝いていた。その道を頑張ってこれたことを誇りに思う」と言い、競技人生への区切りを表明した。
 五輪で評価されるのはメダルとその色。けれども選手には、その過程に血のにじむ努力がある。葛藤(かっとう)がある。競技を続ける意味やメダルを取る意味を何度、自問自答することだろう。そして、家族や指導者らの支えもある。
柔道の谷本選手や上野選手も妹の存在が支えとなった。内柴選手は家族のために戦い、勝ち抜いた。多くの選手が「感謝」を口にした。
 本番までの長い道のり。そこで全力を尽くしたことへの満足感。支えてくれた人への感謝。そうしたことが金メダルと同等か、もしかしたらそれ以上の価値があることを千春選手の笑顔に気付かされ、納得した。
 柔道の谷本選手や上野選手も妹の存在が支えとなった。内柴選手は家族のために戦い、勝ち抜いた。多くの選手が「感謝」を口にした。
 普段は事件、事故の取材がもっぱらで、家族は崩壊しているのではとの危機感を強く持っていた。それだけに、選手と家族のつながりの強さがとても印象に残る。
 五輪選手の家族が特別だとは思わない。トップアスリートが見せた輝きが、大切なことを改めて照らしてくれたように思えた。(北京時事) ボトル (写真上)レスリング女子48キロ級の表彰式で晴れやかな笑顔を見せる伊調千春(左端)=8月16日、北京
(写真下)柔道会場内の文字記者看台席(ペン記者用の机)に置かれたペットボトルとボランティア。人のものと間違えないよう、一本一本違ったイラストを描いたシールが張ってある。8月15日撮影
(配信:2008/8/23)



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